「現在の自分たちを理想化しすぎると、過去を美化して、歴史を捏造していくことになります」
そう警鐘を鳴らすのは、立命館大学などで国際文化論を教え、現在は「グローバルネットワーク21」というNPOの代表を務めている片岡幸彦さんだ。
片岡さんが監訳し、出版されたマーティン・バナール著「ブラック・アテナ」第1巻(新評論)は、ギリシャ文明がエジプトやフェニキアから学んだものを基礎にし、その元をたどればアジア・アフリカになる混成文化だと論証する。白人のアーリア人がつくったという「近代のギリシャ像」は「歴史の捏造」ということになる。
産業革命で世界的に優位に立った近代ヨーロッパが、自分たちの心のふるさととするギリシャ文明から、古代エジプトなどの影響を排除した。捏造の意図を分析すると、「最近の日本における歴史の修正にもつながるものがあります」と片岡さん。
たしかに、日本史の教科書検定で、沖縄戦の集団自決についての記述から日本軍の関与が削除されるなど、このところの「歴史の修正」の背景には、「美しい国」をめざすあまり、過去を美化したり、正当化したりする潮流があるのかもしれない。
バナールはこの著書で「クレオパトラは黒かったのか」といった論議を世界に巻き起こす一方で、第2巻(藤原書店刊「黒いアテナ」上下)で、論証を深めている。いずれも大著だが、今年の夏休みには格好の「課題図書」だろう。
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