羽衣国際大学の中川恵教授は、発表「北アフリカの政治変動」のなかで、エジプト、そしてアラブ世界全体に広がった政治変動について、中東・北アフリカ地域の諸国を、軍のとった立場から分類すると(1)軍が中立を保ち、短期間に政権が崩壊したケース(例:チュニジア、エジプト)(2)
軍の中での分裂が見られるなど中立を保たず、政府と市民との間の武力衝突に発展しているケース(例:リビア、シリア)(3)軍の政治的な場でのプレゼンスが大きく、今後の改革のアジェンダが不透明なケース(例:アルジェリア)、(4)逆に軍の政治的な場でのプレゼンスがほとんどなく、抗議運動はあるものの、現体制の枠内での改革を求めており、反体制運動には発展していないケース(例:モロッコ、ヨルダン)の4つに分類して説明した。
そして(4)のケースに分類できるモロッコでは、2月末に抗議運動が起こったが、3月9日には、国王が、自らの権力を制限し、すでにモロッコで進められていた地方分権化や人権擁護、アイデンティティーの多様化などをさらに推進する方向性を示した憲法改革案についてスピーチをおこない、結果的にその後の抗議運動の要求の枠組みを提供することとなったと指摘した。
また中川教授は、地域としての安定性を考える場合、マグレブ地域の場合は、@モロッコとアルジェリアの関係改善(西サハラ問題、リビアの行方)Aテロリズム(北アフリカやサヘル地域でのアル・カーイダの活動がより活発化する可能性)Bイスラミストの動向(特にエジプトとチュニジアでのイスラーム運動の動向)が、安定への鍵となるだろうと指摘した。
また、モロッコ・タンジェのアブドゥルマリク・サーディ大学のラシード・ブダイギ教授は、地中海からマグレブ地域、そしてさらに南のサヘル地域にかけての地政学的文脈における人間の安全保障を妨げる要素、そして国境横断的、地域的な不安定要素について発表をおこなった。前述の広大な地域において、これらの諸要素が相互に作用しあうため、同地域の経済的統合や安全保障について、次の三つの課題があると指摘する。エルフデイギ教授によると、まず不確実性である。次に不安、そして確信である。つまり、それが持続可能な人間の安全保障を国家が保証できるかどうか非常に不確定である。実際、マグレブにおいて、人間の安全保障が保証されない限り、国家や社会の継続的に安定することは不可能である。民主化そして人権問題が、これまでもマグレブ諸国の発展にとって、大きな障害となってきた。テロリズム、組織犯罪、不法移民、移動の自由の制限という諸問題が、サヘル・サハラ地域、モロッコとティンドゥフに近いモーリタニアとの国境地帯、さらに封鎖されているモロッコ・アルジェリア国境地帯という三つの地域に存在している。モロッコとアルジェリアの間での信頼関係が、包括的な地域の安全保障にとって良好な条件を生みだす必要条件である。従って、エルフデイギ教授は、両国は政治的な対話をおこない、戦略的な敵対関係を終わらせ、マグレブ地域が非常に長い間陥っている戦略的にナンセンスな状況から解放する必要がある。サハラ問題は、両国の長年にわたる敵対関係を示している。両国は国境の封鎖を解除する必要がある。またティンドゥフ難民キャンプでの違法な活動を監視すべきである。これはポリサリオ戦線のなかの一部の人々とテロリスト・ネットワークとのつながりを避けるために必要であると指摘した。
札幌学院大学の松本祥志教授は、緊急事態宣言と国際人権B規約の絶対的人権、つまり身体の自由と差別禁止に焦点を当てた。ジャスミン革命は緊急事態下でなされた。民主的な国家においてでも、自然災害・人的災害により普遍的人権(人民の権利)や相対的人権(財産権、表現、結社の自由など)を制限することが正当化されうる。その場合でも、公正かつ公開の裁判なしに身体の自由が侵害されてはならない。
同教授は、アルジェリアは19年間、シリアは1963年以来、緊急事態を継続した。国際人権B規約は緊急事態の宣言を認めているが、それは緊急な事態の存在を前提にしている。かかる事態が緩和されたら廃止されなければならないが、実際には継続されることがよくあった。それゆえ緊急事態宣言には、時限を定めるサンセット条項が入れられるべきで、既存の宣言には直ちに時限が追加されるべきである、と松本教授は指摘した。
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