ギリシャ人である私は、まず今日こうしてこのシンポに参加できたことについて皆さんに感謝したいと思います。特にパネリストの桜井先生、また主催者の片岡先生、幸泉先生には私を招いて下さったことに感謝したいと思います。
アテネ大学の教授で、ギリシャ考古学を専門としている私としては、バーナルが『ブラック・アテナ』で主張していることについて疑問がない訳ではありませんが、彼が極めて重要な問題提起をしていることは認めています。彼の主張についてすでに多くの議論がされてきたことは、皆さんも周知の通りです。バーナルの主な貢献は古代文明についてのこれまでの通念を再考し、再吟味することの必要性を指摘した点にあり、特に学際的な視点からの考察が大切であることを指摘した点でしょう。
私がここで言いたいことは、ギリシャ文明というものがそもそも混成的な性格のものだということです。ギリシャ文明は、ある意味で日本文明と共通した性格をもっていると言えます。日本の場合、その地理的位置から中国と韓国の影響を受け、そこから多くの文化的事物や思想を受け入れながらその文明を築いてきました。しかしそうすることで出来上がった文明は、中国文明でもなければ、韓国文明でもない、まさに日本文明です。もちろん、中国や韓国の文明と多くの共通要素を持っていることは確かですが、日本が築いた文明はまさに独自の日本文明なのです。
ギリシャもヨーロッパの戸口にあるというその地理的特色から、南方、北方、東方からの文明の影響を受け入れながらその文明を築きました。しかしそこで出来上がった文明は、中東文明でもなければ、エジプト文明でもなく、また北方文明でもない、まさにギリシャ文明なのです。これこそ文化形成過程の素晴らしいところで、ギリシャはこれらの周辺文明と文化的事物や思想の交換、あるいは吸収と模倣をしながら融合文明を築いたのです。そこで出来上がったもの、それは独自のギリシャ文明です。
ギリシャ文明についてもう一つ言いたいことは、ギリシャ文明の価値の世界です。アーリアモデルのためにギリシャ文明はインド・ヨーロッパ文明として混同される傾向がありますが、ギリシャ文明の主たる特徴はその価値感です。それは人文主義として人間性に関する探求の精神として、文学や歴史学、その他の人文学としてヨーロッパに受け継がれるものです。
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