1.はじめに
今年、中国産冷凍ギョウザ問題が顕在化して以降、日本では食の安全と食料の低自給率への懸念が拡がる一方、地産地消など国内農業に対する国民の関心が急速に強まっている。また世界中で温暖化など環境問題への関心の高まりが見られ、それへの対処が議論される中、日本でも国内農林業を環境視点から見直す動きが拡がっている。資源小国といわれる日本にとって、技術革新によるものづくりが国家存続の鍵を握ると言われているが、技術という視点も入れて食料や環境、地域等にどう向き合うべきであろうか。ここでは、農業で大量に使用され、排出されるプラスチック類を素材として取り上げることで、資源循環、環境保全、静脈産業、市場競争、東アジア連携などの問題を考えてみることにしたい。目ざすのは、農業を環境という視点から見直すことで、蒼い地球村の経済の具体像を見通すことであり、そこにおける内からのグローバリゼーションの可能性を見定めることである。
2.農業で使用されるプラスチック類
現代の農業においては、プラスチック類は至るところで使用されている。主なものは、施設園芸におけるフィルム類、露地野菜作におけるマルチフィルム類、畜産における飼料ラップ類、水稲作における育苗箱や畦波、そのほか灌水チューブ、肥料袋、出荷袋、シート類、農薬容器、ポット類、出荷トレー、パック容器などである。
農業から排出される廃プラスチックは、日本では法律的に産業廃棄物として位置づけられている。ただし、韓国や中国では再生指定資源として、日本とは違った位置づけがされている。農業で使用されるプラスチック類は多種・多量であることから、当然のことながら農業から排出される農業用廃プラスチックの量は厖大なものとなる。2005年では15万トンを超えている。その一種PVCについては、中国産野菜の輸入が本格化する1998年をピークに減少傾向にあるが、ピーク時には11万トンを記録した。
3.農業用廃プラスチックの処理
農業から排出される廃プラスチックの処理形態については、環境への配慮から近年では再生処理が多くなってきている。公表されている最新(2005年)のデータによると、かつて主な処理方法であった焼却処理が大きく後退し、排出された151,292トンの廃プラスチックの内、再生処理された比率は57%にまで増えている。1987年の再生処理の比率が20%以下であったことを顧みると、環境負荷の少ない処理形態への転換が進められてきたことが分かる。ちなみに、2005年の場合、埋立処理は21%、焼却処理は8%となっている。
廃プラスチックの再生処理については、地方別に差が見られる。再生処理の比率の高いのは九州と四国で、北陸や沖縄では比率は低い。ただ、どの地方でも年々再生処理比率の上昇が見られ、なかでも1999年に全国平均をはるかに下回る再生処理率だった東北や北海道が、2005年には全国平均に近い水準にまで再生処理比率を上げてきている。
4.農業用廃プラスチック処理システム
農業用廃プラスチックの処理を誰がやるのか、その処理システムについては、民営型、三セク型、組合型などがある。例えば、高知県の場合は三セク型で、高知県農業用廃プラスチック処理公社が会員から集めた負担金を使い、高知ビニール株式会社に再生処理を委託している。宮崎県の場合は(株)黒田工業と宮崎県廃棄物処理事業協同組合が農業用廃プラスチックの回収・処理にあたり、民営型と組合型とが併存する形となっている。
民間企業が農業用廃プラスチックの再生処理に関わっている例は、多くの地域で見られる。ただ問題なのは、これら業者の採算性である。操業を開始してもすぐ経営困難に陥るとか、やむなく操業停止するといった例が各地で起きている。この理由としては、まず廃棄物処理業は規制産業ということで、操業開始にも、施設設置にも、すべて都道府県の許可が必要であることがある。このことは事業を拡大したい場合、多くの都道府県から許可を取り付ける必要があるということで、広域で大規模な操業を行うことへの障害となっている。さらには装置産業として大きな初期投資が必要であること、適正処理から資源循環へと高度の専門性を要すること、発生源が多く分散しているため規模の経済を発揮しにくいこと、提供するするサービスの質が見えにくいことなどの特色をもっている。これらの特色のため、廃棄物処理業はビジネスとして採算性が低い事業である。実際、農ポリを再生してもう一度農ポリとして農家に戻すという世界で最初の技術を開発した業者ですら経営的には明るい展望をもっていない。
5.国内処理か海外輸出か
廃掃法第2条第2項によると、「国内において生じた廃棄物は、なるべく国内において適正に処理されなければならない」とされている。しかし、大きな初期投資により処理施設を設置したとしても、処理能力と地域から回収される廃棄物の量とのギャップは大きく、また回収を全国に広げる広域展開をおこなったとしても効率的回収ができにくいという、この事業の性格は変わらない。そのため、廃掃法のこの理念が十分に活かされていないのが現状である。過剰な処理装置が足かせとなり、また業者間の過当競争があり、農家から徴収する処理負担金も低額化するため、採算性が低いというこの産業の特色はむしろ強化されている。
ここで登場してきたのが、廃棄物の海外への輸出である。輸出先としては、中国、香港、台湾など、アジア諸国が中心であるが、2000年から2007年について約8倍の増加となっている。ただ2004年5月のバーゼル条約違反行為を摘発されたS社事件以降、中国は農業用廃プラスチックの輸入を禁止しており、それ以降は香港ルートで中国に流れている。中国では再生処理の技術開発が遅れ、圃場周辺に放置、ないし農家が勝手に焼却する処理方法が依然として取られている。中国の輸入禁止措置の理由は、農業廃プラが農薬に汚染されているということであるが、もしそうならば中国国内での未回収・焼却の放置は土壌汚染を拡げ、農産物の安全を脅かすことになる。日本から香港経由で輸出される農業廃プラの処理が水質汚染を拡げていることを思えば、国内処理から海外輸出に転換することが蒼い地球村につながる解決策だとは言いがたい。
6.JA豊富町における取り組み
農業用廃プラスチックの処理の問題は、広く資源循環・環境保全について考えさせる内容をもっている。処理事業の経済的採算性の低さということを思えば、民間業者だけでなく、行政、協同組織などの連携、つまり私・共・公の協力が必要であろう。このことを認識して積極的に三者共同で、それぞれ役割分担を明確化しながら農業用廃プラスチックの回収処理に取り組んでいるのが、北海道稚内に近い豊富(とよとみ)町である。ここでは、「公」である支庁が主導して協議会の設置と集団回収・遠距離輸送による適正処理の広域体制作りを行っている。「共」としては、集落営農懇談会を設置し、農協による廃プラスチック適正処理に対する自覚の向上と明確な方針の提示に努めている。さらに「私」部門の回収業者に庭先からストックヤードまでの町内輸送を委託し、その後処理工場までは広域調整による大型トラック輸送で農家負担の軽減を図っている。
豊富町では、巡回指導を織り込んだ啓発活動も行っており、農家個々の意識の向上にも努めている。こうした優れた取り組み事例は、全国の多くの地域で産み出されている。農業者を始め、関係者の意識の向上を図りつつ、共同連携した取り組みが農業廃プラをゴミから資源へと変え、再生処理比率向上として資源循環の一翼を担っていることは、資源循環・環境保全という地球村全体の問題を考える上での一つのヒントとはなると思われる。
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