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Global Network 21
グローバル・ネットワーク21
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2008年度春季シンポジウム
:『内からのグローバリゼーション:蒼い地球村再生のための行動計画』

(発表要旨)

現代べトナムで考える民主主義−インターネットと民主化

                                                  

古田元夫

                 

 私に研究会から与えられた課題は、インターネットという参加型メディアの登場により、参加民主主義が、地域共同体というレベルをこえて可能になるかどうかを検討することだったが、残念ながら、この課題を真正面にすえた議論を展開する能力は今の私にはない。

そこで、私はインターネットの可能性を、現代べトナムにおける民主主義をめぐる問題に即して考えてみることにしたい。

一昨年の時点でべトナム国内のプロバイダー契約件数は前年比175%の増加で143万件、インターネット利用者は534万人で人口の6.55%に達したといわれている。現在、べトナムではインターネットが急速な普及を見せている時期なので、この数値よりは現状は相当進んでいると思われる。このインターネットの普及を背景に、べトナムの主要な新聞はいずれもインターネット版をもつようになり、それ以外にVietnam Netなどのインターネット専門新聞も登場するようになった。

このインターネット新聞の登場は、2006年4月に開催されたべトナム共産党第10回大会の準備過程に、今までにない新しい状況をつくりだした。第一は、共産党大会の政治報告への意見提出という、従来は共産党内部の閉じた空間で、外部はもちろん共産党内部でも高級幹部以外にはあまり内容が伝わらない形で行われていたプロセスが、インターネット上で、党員・非党員、国内居住者・外国居住者の区別なく、しかも提出された意見をただちに一般人が見れる形で展開されるようになったことである。第二に、べトナムの国外には、難民で脱出したべトナム人による反共的なインターネット新聞が多数存在しているが、べトナム国内のインターネット新聞の活性化は、国外の反共的なインターネット新聞でも報道され、事実上、国内と国外を結ぶ新たな公論形成の場が生み出されたということである。

ただし、このインターネットを活用しての言論の活性化は、べトナムの現状では、まだ明らかな限界をもっている。一つは、インターネット上での言論の活性化は、職場や地域といった「現場」での言論の活性化とは連動していないという問題である。いま一つは、インターネットは都市の話であり、農村への普及はまだまだなので当然ではあるが、そこでの言論の活性化は、今べトナムで注目されている、村レベルの民主主義という課題と接点をもっていないという問題である。現在べトナムでは、幹部の汚職・腐敗を監視し行政の専横をチェックするとともに、経済発展に人々の英知を結集するために、村などの基礎の地域共同体における民主主義のルール化の試みが、国家的事業として展開されている。もともと村落共同体の結合が強かったべトナムでは、社会主義的集団農業の解体後、伝統的な共同体の「再生」とでもいえる動きが、自然発生的な下からの動きとして生まれたが、国家もこの動きの活用を図っている面があり、村は上からも下からも注目されている。こうした村をめぐる動きとは、インターネットはまだ強い連携を持つにはいたっていない。

私の報告では、こうしたべトナムの現状をふまえつつ、インターネットと民主主義の関わりについて考えてみたい。

 

 

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